国際協力活動と集団的自衛権をめぐる議論

日本国際ボランティアセンター(JVC)
長谷部 貴俊

キーワード:集団的自衛権、ODAの軍事化、市民社会

1.はじめに
 日本政府が「積極的平和主義」をかかげる中、集団的自衛権の容認が閣議決定され、今後法改正が進む予定である。これらの動きによって、日本のNGOも含 めた文民アクターによる人道支援、復興支援のなにが変化してしまうのか、議論する。同時に、ODAの軍事化の動きも検証し、JICA、外務省、防衛省が推 進しようとしている「オール・ジャパン・アプローチ」とはなにか、これらに対して民軍連携の問題点を提起する。最後に、紛争地で求められる国際協力のアプ ローチはどのようなものかも提起する。

2.集団的自衛権によって失うもの
これまで自衛隊派遣は、2003年のイラクをはじめとして数多くあるものの、武力を行使する事態に陥らないように細心の注意を払ってきたと言われている。 イラク人にとっても、(誤解もふくめて)非軍事を中心とした国際平和協力により日本は国際的な信頼を獲得してきた。
アフガニスタンにおいて、日本外務省職員派遣による民軍連携協力、インド洋への自衛艦派遣はあるものの、「日本の支援は欧米諸国と違い、市民の巻き添えも 多い軍事支援ではなく、復興に特化したアプローチだ。日本のプレゼンスは大きい」とアフガニスタン市民の多くが述べているし、JICAはアフガニスタンに おいて民軍連携に慎重であり、実際連携は行われていなかった。NGOのみならずJICAにおいても軍と距離を取ることにおいて日本の中立性を保つことがで きたといえる。
しかし、集団的自衛権を認めることで「日本の平和協力の独自性が失われること」を危惧する。

 3.紛争地で自衛隊によるNGO救出は現実的か?
 日本政府は紛争地においてNGOスタッフが武装勢力に拘束された際に、自衛隊による救出を述べているが、アフガニスタンでは多くのNGOは「武装の警護 もつけず、丸腰で活動してきたからこそ安全が保たれた。」これはアフガニスタンだけでなく、他国でも多くの人道支援団体に共通したアプローチである。 NGOスタッフが拘束された多くの場合、赤十字国際委員会や地元リーダーによる交渉によって解決されているし、軍と距離を取ることで中立性を保つ、その結 果、安全を確保している状況と日本政府の議論はかなり異なる。
また、今日の戦争において、武装グループの多くは住民の中に溶け込むか、または住民自身ですら、どこで、どのように武装グループが地域社会で活動しているか把握できない中、外部者である自衛隊による救出は非現実である。

4.ODAの軍事化
「ODA大綱見直しに関する有識者懇談会報告書(2014年6月)」の中に、「現代では軍隊の非軍事分野での活動も広がっており、民生目的、災害救援等の 非軍事目的の支援であれば、軍が関係しているがゆえに一律に排除すべきではなく、その実質的意義に着目しつつ、効果・影響等につき十分慎重な検討を行い、 実施を判断すべき(6ページ)」という言及がある。これは、軍事の非軍事部門にODAを活用していく姿勢である。
オール・ジャパン・アプローチの推進
上記と関連した形で、オール・ジャパン・アプローチが推進されている。そもそも、2003年イラクでのODAを活用した自衛隊活動が大きくクローズ・アッ プされた。この動きを受け日本政府・自衛隊・NGOが一体となって紛争地/紛争後の社会で復興開発援助を実施しようとする動きが、実務面でも研究面でも加 速している。
しかし、そもそも軍との連携に含む問題性はなにか。これについて、アフガニスタンを事例にみてみたい。

5.アフガニスタンでの民軍連携とは
アフガニスタンでは2002年11月に導入されたPRT(Provincial Reconstruction Teams)という、軍事組織と文民組織が共同して復興に取り組む形態が全土で行われていた。PRTが、軍主導の人道・復興支援活動であり、対テロ戦争の 過程で治安が極度に悪化したアフガニスタンでは軍と文民の共同支援が有効と言われている。しかし、PRT活動は、援助と引き換えにタリバーンの情報提供を 求めたり、人心掌握の目的に利用されていた。そのため、タリバーンはじめ反政府勢力は、PRT活動とNGOによる人道支援を混同し、2007年前後、 NGOをソフト・ターゲットとして攻撃を行っていた。その後、タリバーン側のNGO理解の促進とNGOによる外国軍への抗議を行った結果、NGOへの攻撃 数は減少した。しかし、この事例が示すように、現地の住民にしてみれば、軍の活動と人道支援NGOの支援を区別することは難しく、タリバーンが攻撃対象と してしまうことも、不思議ではないだろう。そのため、人道支援団体は軍と一線を画す必要があるのだ。
軍事攻撃だけでなく民生支援を人心掌握、情報収集の軍事目的として利用することはアフガニスタンの事例が提示したように、今後、同様のケースが予想され る。同じ軍隊の中で、一見別々と見られる軍事目的と民生目的が双方でリンクし、上位目標が一致することは見逃してはならないだろう。
「軍による人道支援は最終手段である」という欧米の人道支援団体間の共通理解からオール・ジャパン・アプローチはかけ離れている。

6.紛争地での国際協力活動
軍と一線を画した中立的な人道支援を行うことはもちろんだが、それ以外になにか求められているのだろうか?メアリー・カルドー(2007)は、「グローバ ル市民社会は、単独主義国家や原理主義が支配的な地域のなかの市民社会に手を伸ばして、テロリズムに代わる現実的な代替案を提示しなければいけない。」と 述べている。紛争地において、単なる西欧的な価値観の押し付けでない現地の市民社会支援、対立の緩和といった支援がNGOを含む日本の文民支援に求められ るのではないか。
 また、そもそもそもそもNGOは戦争に対してどう考え、行動すべきだろうか。国境なき医師団の元理事長であるロニー・ブローマン(2000)は「人道援 助は戦争から生まれ、戦争を通じて存在していながら、同時に戦争にたいし賛成とも反対とも全然言わない点にある。」と述べ、また、専門職業と化した人道支 援を否定し、人道支援が蛮行への承認になることを危惧している。つまり、一般の市民がもっている戦争への嫌悪感、否定的な考えにNGOは立ち向かうべきか という質問を投げかけた。イラク戦争後、日本や米国、各国政府はNGOを対テロ戦争のソフト戦略とみていた。現状の人道支援のNGOの在り方からすれば、 人道支援を生み出し続ける戦争そのものの否定が人道支援NGOにつきつけられた根源的な問題である。

参考文献
・    日本国際ボランティアセンター「集団的自衛権をめぐる議論に対する国際協力NGO・JVCからの提言」2014年
・長谷部貴俊『「テロとの戦い」とNGO』「終わりなき戦争に抗す」中野憲志編 2013年、新評論
・メアリー・カルドー 山本武彦ほか訳 「グローバル市民社会論」2007年、法政大学出版局
・ロニー・ブローマン 高橋武智訳 「人道支援、そのジレンマ」産業図書、2000年、