司会:奥本京子
報告:福島在行「〈平和博物館研究〉という場はいかに形成できるか?―日本における平和博物館研究史とこれから―」
本報告は、いかに〈平和博物館研究〉という領域を形成していくか、そのためにはどのような作業が必要かについて考えるための準備作業としてなされた。〈平和博物館研究〉とは、①平和博物館を肯定的に前提とし、②その展示や活動を検証することを通じて、平和博物館を支える研究領域、という意味で設定し、使用している。
報告者がこのような作業を行おうとしたのには次の三つの背景がある。一つ目は報告者が立命館大学国際平和ミュージアムのリニューアルに携わった際の困難と、それをサポート可能な研究の蓄積がほとんどなかったということ。二つ目は、10年ほど前から提起されている、博物館における表象に対する批判に対して、平和博物館がどのように応えていく/いけるのかということ。三つ目は、平和博物館という場に近年から参与することになった、いわば「後から来た世代」としての自分(そしてこれから参与するであろう人たち)が、そこに研究的・実践的に参与するための基礎作業が必要であるということ。この三つである。
このような背景を受けて本報告は、従来、日本の平和博物館に関してどのような研究がなされてきたのか、その整理と紹介とを中心に報告された。次のような手順と内容である。1)まず、日本において「平和博物館」という層がどのように成立したのか、具体的な研究の整理・紹介に入る前にごく簡単に整理する。ついで、2)平和博物館を対象としたこれまでの研究を整理・紹介する。その際、研究者自身が検討対象を明確に平和博物館として理解し、自らの研究がそれを支えるものであることを自覚的に意識している研究を重視し、その整理からこれまでの平和博物館の研究の輪郭を描く。そしてその後で、3)として、平和博物館以外の戦争展示に関する近年の研究動向を概観し、そこで提出されているいくつかのテーマが平和博物館にとっても検討すべきテーマである点を確認し、報告は終えられた。
討論では6人の分科会参加者から質問と意見が提出され、それに報告者が答える形で進行した。まとめると次のような質問が出された。①平和博物館の研究ではなぜ展示や見せ方に関する研究が少ないのか、「平和の礎」を展示論的にどう捉えるか、などの展示論をめぐって。②教育の面から平和博物館をどう活用すべきかなど、活用方法。③平和博物館をどのように研究が支援できるのか。④平和博物館だけでなく他の博物館に関する研究との関係や、何を平和博物館と捉えるかなどの、平和博物館の定義や枠をめぐって。
報告者の方からは、ともかく平和博物館に関する研究の量が絶対的に少なく手つかずの部分がたくさんあるので、出された質問や意見に答えるためにもぜひ〈平和博物館研究〉の形成に参与してほしい、と参加者に対して協力を求められた。分科会に参加してくれた人々の中には、教員として平和教育を行う際、平和博物館を活用している人、平和博物館関係者などもいて、例えば、当分科会と平和教育分科会の合同分科会などを、今後開催する必要があるという議論なども出た。このように、平和博物館の研究と実践の問題は、多岐に渡る要素が絡んでいるので、今後、様々な場を作り、議論・交流を深めていく必要性をひしひしと感じる分科会となった。(福島在行、奥本京子)