司会:奥本京子(大阪女学院大学)
報告:森田明彦(東京工業大学)「ミニワークショップ―人身売買被害者の描いた『人生の河』」
報告:淵ノ上英樹(HiPeC:広島大学平和構築連携融合事業)「平和記念施設は平和を資するのか」
先ず、森田氏によるワークショップ形式を取り入れた報告が行われた。森田氏は、参加者に好きな色のクレヨンを選んでもらい、A4用紙に、自由に今の気分を線で描いてもらった上で、隣の人とペアになってお互いの気分を推測してもらうというアクティビティを行なった。目的は、ビジュアルアートが人間の感情をかなり正確に伝達できる力を持っていることを参加者に感じ取ってもらうことであった。その上で、昨年8月にカンボジアで実施したリサーチワークショップで人身売買被害者が描いた絵画を紹介しながら、(絵画という)アートも言語であり、社会調査の手法として活用可能であることを、チャールズ・テイラーの言語哲学などを援用しながら説明した。その後、参加者からアートセラピーを応用したリサーチワークショップの具体的な進め方、言語としてのアートの特質、被害者に対するリサーチャーの向き合い方などに関する質問があり、この手法について様々な角度から、参加者とともに再考することとなった。
次に、淵ノ上氏により、研究報告がなされた。淵ノ上氏は、戦後の広島市の復興にスポットを当て、その中で原爆ドームや平和記念公園などの平和記念施設がどのように位置づけられ、それが人々にどのような影響を与えたかを残された文献をもとに分析した。最後に、平和記念施設は平和を資したと結論づけられた。発表後のディスカッションでは「記念」と「祈念」の差や、民俗学博物館の展示の仕方、加害被害の関係が複雑な状態においての和解の問題など、多くの質問や意見が交わされた。最初の森田氏による報告での「アートは言葉だ」という概念は、淵ノ上氏の研究に大きなヒントを与えたという。
当分科会会場は、平和学会の初の試みであったアート常設展示の会場の中に設定され、報告者どうしと、参加者、そして、アート展示の参加者と書籍販売のスタッフ全員を重層的構造で巻き込む形で行なわれ、雰囲気が和やかなものとなったことも、興味深い試みであった。今後も、さまざまな形態の「場」を提供しつつ、芸術と平和の関係をともに模索していく分科会でありたいと願っている。関心をお寄せの会員は、学会HPからML登録をお願いしたい(さらに、非会員も含んだ緩やかなネットワーク作りの場としてのMLも、別途立ち上げている。登録希望の方は、責任者までご連絡いただきたい)。(奥本京子)