司会:奥本京子(大阪女学院大学)
報告:中村香代子(早稲田大学大学院社会科学研究科博士課程)「記念碑における挑戦―戦争記念碑とアーティスト、アーキテクトの挑戦を中心に―」
報告:佐久間美羊(千葉経済大学短期大学部)「捕虜たちの創作活動~チャンギ文学会~平和学の観点から」
2006年秋季研究集会における当分科会では、2人から報告がなされた。まず、中村香代子氏は、戦争記念碑が過去にナショナリズムの高揚や戦争の正統化に寄与し、その存在が暴力と不可分にあったことを確認した上で、そのような文化的暴力を低減しなければならないとする平和学的視点から、いかなる平和的記念碑の可能性が考えられうるのか、という問題提起をされた。フォルム、様式、建築家やアーティストたちのコンセプトなど、様々な角度から具体的な記念碑を検討し、ナショナリズムや戦争の肯定に反省的な記念碑の要素を抽出し考察、さらに記念碑自体に対抗していこうとする表象行為、あるいは既存の記念空間を意識的に読み替えて平和的空間創造を試みようとするアートなどの記念碑への挑戦的な表現を紹介された。確かに建築家やアーティストなどの記念碑創造への介入は、平和的文化の一方法論になりうるかもしれないが、一方で、依然として暴力性と不可分の記念碑が存在していることを最後に付言された。会場からは、報告者が評価した記念碑表現に対して、戦争責任が果たされているのか否かという疑問などが呈示された。
次に、佐久間美羊氏は、第二次世界大戦時にシンガポール・チャンギの日本軍捕虜収容所で連合軍捕虜によって結成された文学会に焦点を当てた報告をされた。詩はメンバーであった捕虜たちの感情を非暴力的に解放させ、捕虜の生活・世界への理解と自分たちのアイデンティティの探求を可能にしたという。このことで彼らは主体的かつ創造的に正気を保ち、自分が何かを統制している感覚(a sense of control)を得、無力感を克服した。また、文学会は書くこと、表現することだけではなく、分かち合うこと、お互いに尋ねあうことにも意義があったと言える。捕虜収容所という最も非人間的な状況下の1つの空間で捕虜たちはお互いの人間性に触れようとしていたのである。彼らは圧制的な状況下でも、情熱を失わず創造的な方法で抵抗した。彼らにとって詩は、平和とは何かを想像するインスピレーションの源、そして生き抜く源になったと結論づけられた。
当分科会では、今後も、研究報告、芸術テキストを巡っての対話、芸術家によるパフォーマンスなど様々な様式を模索し、「場」を提供して行きたいと考えている。創造性溢れる提案を歓迎したい。まずは、責任者までご連絡ください。(奥本京子)