テーマ:「原爆投下・被爆者問題についての日韓の認識ギャッップの問い直し」
司会:木村朗(鹿児島大)
報告:権赫泰(韓国・聖公会大)「“唯一の被爆国”」という言説の形成と被爆ナショナリズム」
報告:中村尚樹(フリージャーナリスト)「日本における“こころの被爆者”」たち~日韓草の根交流の成果」
討論:直野章子(九州大)
* 分科会「平和運動」との共同主催
今回の済州島での日本平和学会では、2007年11月10日(土)に「グローバルヒバクシャ」「平和運動」という2つの分科会の合同分科会という形で、「原爆投下・被爆者問題についての日韓の認識ギャッップの問い直し」を共通テーマとして開催されました。当日は、高橋博子会員の司会で、権赫泰(コン・ヒョッテ)氏(韓国・聖公会大学教授)に「“唯一の被爆国”」という言説の形成と被爆ナショナリズム」、中村尚樹氏(フリージャーナリスト)に「日本における“こころの被爆者”」たち~日韓草の根交流の成果」を報告していただき、続いて直野章子会員(九州大学)からコメントをしていただきました。また、金 惠玉(立命館大学)、李リョンギョン(立教大学)両会員には難しい通訳をしていただきました。
最初に権先生が、「唯一の被爆(国)」という言葉が、いつ、どのようなロジックで使われ、日本の戦争体験への「国民的記憶」として定着されて行ったのかを、特に記憶の「排除」「統合」という観点から、新聞、国会、運動団体、自治体などから出された発言、声明、記事などの資料を使って実証的に検証されました。そして、「唯一の被爆国」という言葉は、被爆体験の歴史的継承という側面だけでなく、安全保障面において日本の反核平和への意志を表象する「全国民的」な記号になっているという結論を提示されました。この権先生による論証と結論は非常に説得力があり、日本人が「被害者意識」を強調することで失われがちであったもう一つの「加害者意識」を呼び覚ますものであり、多くのことをあらためて考えさせられました。
次に、中村氏は、岡正治さん("長崎在日朝鮮人の人権を守る会代表")、鎌田定夫さん("長崎の証言の会代表委員")、松井義子さん("韓国の原爆被爆者を救援する市民の会会長")という3人の日本人の研究者・市民運動家を取り上げて、原爆や被爆者、あるいは戦争と原爆の問題にどのように向き合って生きてこられたのかを具体的に紹介していただきました。そのなかで、3人の方がいずれも「こころの被爆者」、すなわち抑圧され、差別に悩む被爆者に共感し、共に歩むことのできる人々であり、日本人と外国人(特に韓国人)の被爆者や市民との相互の連携・ネットワークの構築にその生涯を捧げた人々であったということが明らかにされました。
今回の韓国・済州島での日本平和学会開催という画期的な試みが日本と韓国の原爆・被爆者問題の相互理解を深めるための一つの大きなきっかけとなったことだけは確かだと思います。(木村朗)