司会:森玲子(広島大学)
報告:佐伯奈津子(上智大学)「津波と国軍:アチェ女性の闘い」
討論:佐竹眞明(名古屋学院大学)
インドネシア、アチェ地域の人々は、1976年以降自由アチェ運動を展開している。そこを2004年12月スマトラ沖で発生した地震による津波が襲い多くの死傷者を出した。今回の報告は「津波と紛争」の「アチェの二重苦」に関して、特に女性の情況に焦点を当てたものである。報告者は1999年からこの地域の調査に携わり、津波被害以降も現地で救援及び調査にあたった。
NGO Oxfamによると、津波の被害に著しいジェンダーギャップが見られるという。例えば大アチェ県4箇所での生存者に占める女性比は21-31%、一方で北アチェ県4箇所の死亡者の女性比は69-80%である。その理由は、災害発生が休日で、多くの女性が子どもと家にいて逃げ遅れたこと、泳ぎや木登りなどの避難手段に長じていなかったなどが指摘されている。被害後、男性が慣れない家事に従事していると同時に、女性はテントの共同生活でのプライバシーの欠如や、レイプ・残された者同士の強制結婚などの更なる被害を受けているとの指摘もあった。
その一方で報告者は、残された女性たちによる復興への積極的な動きを高く評価している。長年の紛争の中で、兵役につく男性の代わりを地域で果たし、また知恵で男性を助けてきており、女性たちは強さとしなやかさを身につけてきた。今回の被害後も、役人の不正で届かない援助物資獲得のためのデモの実行、塩作りの開始などが女性中心で行われている。さらに治安軍(国軍)から男性を隠して守り、誘拐された男性の捜索、殺された男性の遺体の引き取りなども、紛争の中で女性たちの新たな役割となってきており、今回の二重の苦しみの中でも、女性の強さを実感したという。
この地域では天然ガスをめぐり日米の企業も進出しており、紛争は長期化かつ複雑化しているという。女性が被る被害の現状に憤るとともに、よりよい生に向けての女性たちの積極的かつ力強い取り組みへの支援の継続を願いたい。