報告:レベッカ・ジェニソン(京都精華大学)「戦争・暴力の記憶と表象:『パブリック・メモリー』と現代アートを巡って」
今回の報告は、アートおよび現代アートが戦争・暴力というテーマをどのように表現してきたのかを、議論の出発点においていた。個人のトラウマや記憶を「証言としてのアート」として現すことや、戦争や暴力の責任を問うための作品として誕生させる作家もいる。テロとの闘いという大儀明文の出発点となった2001年9月11日以降を、現在進行形として認識しメデイアを意識しての作品作りに取組む作家もいる。これらの作家により作られた作品は、「パブリック・メモリー」として見る人に働きかける重要な意味があると、報告者は指摘した。
特に4人の作家について、スライドで作品を鑑賞しながら、議論が進んだ。
自らをフェミニスト・アーテイストと称する、Mary Kellyは、湾岸戦争時のメデイア報道に注目し、戦争の暴力性と男性性-病的な男性性を作品上で分析しようとしている。Fred Wilsonは、戦争の結末という作品において、オブジェの美学に目を奪われることなく、戦争という究極的な狂気や混沌を思い起こさせるものであることを表現しようとする。Yong Soon Minは、軍事化と経済的植民地化の今日において、第三世界の女性の置かれている現状を表現し、声なき声を届けようとしている。Dinh Q.Leは、ベトナム戦争を取り上げ、アメリカ社会でのその神話化を批判し、カウボーイとバニーガールを通して戦争の意味を問いかける。
日本の富山妙子や嶋田美子の作品も紹介し、フェミニズムやジェンダー論による戦争や暴力に関する理論とアートの関係についても報告者は述べ、想像上の「パブリック・メモリー美術館」建設のための作品探しをこれからも続けていくという。戦争・平和を巡るジェンダー・パースペクティブによる議論において,アートの果たす役割をあらためて確認する意義深い議論となった。