今回の本分科会では「平和博物館研究の場をめざして」というテーマを設けた。導入として福島在行が「〈平和博物館研究〉の形成に向けて-研究動向の整理から-」と題して報告し、続けて杉田明宏が「文化的平和のアプローチにおける地域平和資源の活用-丸木美術館との博学連携の試みを中心に-」と題する報告を行った。参加者は17名であった(司会・報告者含む)。
福島報告は日本の平和博物館研究の大まかな動向を示し、現在散発的に諸領域で発表されている平和博物館をめぐる研究に対し、ゆるやかな〈平和博物館研究〉の場を形成することを提案した。杉田報告と引き続く討論はそのような場を作る試みとしての意味を持つ。
杉田報告は、杉田が担当している大学の「平和学」の講義で、原爆の図・丸木美術館と連携してなされた教育実践の報告であった。杉田は、「文化的平和」の視角からのアプローチを前提とし、その際に「平和資源」がどのように活用できるかという課題を設定した。その平和資源の一つとして、地域所在の平和博物館がある。具体的には「原爆の図」第1部「幽霊」の貸出パネル(原寸大複製)を大学で鑑賞し、丸木美術館学芸員の解説と意見交流が授業で行われた。杉田が注目した授業の成果は、学生たちの作品や原爆・戦争についての「多様な気づき」や、意見交流等による思考の「関係的深化のプロセス」である。このような成果を指摘した後、教員としては「より能動的関与を促すための方法論・工夫」をどのようにすればよいのかさらに検討する必要を述べ、平和博物館に対しては「展示空間」に止まるのではなく「社会的活動主体」となることを提言して報告を終了した。
討論は活発に展開された。まず、「平和」の概念図や平和資源、「平和の記憶」といった問題をめぐる議論がなされた。これは、杉田の教育実践をめぐってと言うよりは、彼の使用する概念をめぐる議論であった。その際、平和を動的に捉え、過去の経験の中に「平和」構築のための平和資源がすでに存在すること、そのようなものも含めた「平和の記憶」を示すことが重要であることについては、一定の共通了解が作られたように見受けられる。以降の討論は、主に平和教育および平和博物館の活動実態をめぐってなされた。平和教育では「暴露型」授業からの転換が1980年代に提起されているが、平和博物館ではどうかという質問に対し、現場からは、戦争(15年戦争)の実態展示については一定の共通性が形成されているが、未来を展望するような展開についてはまだ弱いという回答があった。この点については、戦争に対する抵抗の歴史をもっと展示に入れるべきとの意見も出された。また、博学連携あるいは平和博物館と平和教育との連携がもっと可能ではないか、その際、学芸員はどのような役割を果たしうるのかといった問題も提起されたが、タイムオーバーのためこの点については提起だけで終わった。
今回の分科会は、あくまで〈平和博物館研究〉の場を少しずつ構築していくための一つの「足がかり」であり、何らかの方向性を打ち出したり、まとめたりすることを行わなかった。最後に、このような場を、関心を持つ人の間で一つでも二つでも作ってほしい旨、司会が述べて解散した。(文責:福島在行)
平和と芸術分科会では、幅広く多様な内容・形式の報告・発表を歓迎します。報告希望者は、電子メールにて、okumoto(a)wilmina.ac.jpまでご連絡下さい。(責任者:奥本京子)