テーマ:「残虐兵器の廃絶と市民・NGOの役割―クラスター爆弾、劣化ウラン兵器、核兵器の全面禁止を求めて」
司会:竹峰誠一郎(三重大・研究員)
パネラー:目加田説子(中央大)「クラスター爆弾禁止条約の意義と今後の課題」
パネラー:嘉指信雄(神戸大)「劣化ウラン兵器禁止キャンペーンの現状-国連決議採択('07/12)後の展望」
パネラー:児玉克哉(三重大)「核廃絶に向けてのヒロシマ・ナガサキプロセスの意義と課題」
パネラー:木村朗(鹿児島大)「原爆神話からの解放と核抑止論の克服―戦争と核のない世界の実現するために」
* 分科会「平和運動」と共同で部会I企画・開催
部会Iではクラスター爆弾、劣化ウラン兵器、核兵器廃絶に向けた市民・NGOの運動に焦点をあて、廃絶運動に関わっている会員に報告をいただき、活発な議論をおこなった。
目加田報告「クラスター爆弾禁止条約の意義と今後の課題」では、クラスター爆弾禁止条約締結に至った経緯が説明された。当初、特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の枠内でクラスター爆弾は扱われ、禁止に向けた交渉が重ねられたが先進国の反対で実現に至らなかった。そこでCCWと離れて、ノルウェー政府が主導し「オスロ・プロセス」という別のフレームワークが用意され、条約の締結に至った。対地雷禁止条約を生んだ「オタワ・プロセス」と同じく、中堅国家とNGOが密接に協働する形で進められた。また条約交渉の過程で、被害者支援の条項が入り、肉体的損傷だけでなく、精神的被害や、汚染された土地に住む人の被害、本人だけでなく家族も含めた被害者定義の拡大がなされたのは、NGOの大きな成果だとも指摘された。一方課題として、条約の発効、加盟していない米中への呼びかけなどが指摘された。
嘉指報告「劣化ウラン兵器禁止キャンペーンの現状」では、07年12月に国連総会で劣化ウラン兵器に関する決議が初めて採択されたことを踏まえた報告がなされた。同決議は廃絶を訴えるのではなく、国連が加盟国に劣化ウラン兵器に対する見解を求めた内容であることがまず説明された。他の類似決議より多い19カ国が回答し、「決議案を提出したキューバも驚いている」が、一番の被害国であるイラクが未提出で、またWHOが、劣化ウラン兵器は言われているほどの危険性がないとの報告を出しており、正当化の根拠になっている問題が指摘された。併せて劣化ウラン兵器工場周辺でも被害は発生し、米軍は演習で実弾を使っており、戦闘地だけではない劣化ウラン兵器問題の広がりが指摘された。
児玉報告「核廃絶に向けてのヒロシマ・ナガサキプロセスの意義と課題」では、社会を変える提言をし、研究と運動の橋渡しをしていく役割が平和学にはあるのではないかと問題提起をし、核兵器廃絶にむけた道筋を構築すべく、自ら考案した、ヒロシマ・ナガサキプロセスが報告された。「モデル核兵器禁止条約」や「2020ビジョン」があるが、そこにたどりつくプロセスが大切だと述べ、核兵器禁止使用決議が国連総会で圧倒的多数の賛成で採択されていることを踏まえ、核兵器使用・威嚇禁止条約の制定をまず目指すべきと指摘した。対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約の締結プロセスに学び、同条約は、核保有国の情勢を待つのではなく、非核保有国で国際的スタンダードを作る形で先行して進めるべきと述べた。また非核地帯条約の締結をこれまでの地域単位ではなく、世界のどこの国でも参加できる形で進めるグローバル非核地帯条約案も披露された。
木村報告「原爆神話からの解放と核抑止論の克服」は、クラスター爆弾に続き劣化ウラン兵器さらに核兵器廃絶へと展望を切り開いていくため、これら残虐兵器を支えてきた構造に目を向ける必要性が指摘された。具体的には、核兵器の使用はそれだけが単独で行われるものではなく、核兵器廃絶の前に戦争の禁止・廃絶を位置づけ、その根本問題として軍産複体の問題追及を続ける長崎大の舟越会員の視点に共感を示し、軍産複合体の規制の必要性を指摘した。加えて情報操作による隠ぺいの問題を指摘し、既存のメディアの活用だけでなく、私たち自身が新しいメディアとして発言していく必要性が語られた。また核兵器を支える原爆神話と核抑止論の克服に向け、「グローバル・ヒバクシャ」や「ニュークリア・レイシズム」の視角から核兵器問題をとらえる重要性が指摘され、法的側面からだけでなく道徳的側面から兵器の廃棄を迫っていく必要性が指摘された。
質疑応答のなかで、目加田会員からは、クラスター爆弾の廃絶条約は、軍縮という枠よりも人道や環境、開発、人権問題として幅広い提起をし、多様なNGOが関与する形で進められ、幅広い世論の関心を呼び、成功に導いたとの指摘がなされた。
嘉指会員からは、運動の流れとしてはクラスター爆弾に続けと勢いをもってきているが、クラスター爆弾のように、国連の外の場で劣化ウラン兵器の廃絶交渉を進めることに、各国外交官の抵抗感が大きいことが紹介され、まずは国連の中でできることを試みる必要性が語られた。また科学的な影響という壁をどう越えていくのかという課題も提起された。
現在反核NGOの多くは、核拡散防止条約(NPT)の再検討会議を足掛かに核兵器廃絶を前進させようとしているが、児玉会員からは、NPTをよりよくしていくことは重要だが、NPTは核をもっている国が、もっていない国に持つなという条約で廃絶には向かない。そうではなく発想を変えて、核をもっていない国がもっている国に主張し、もっている国のおかしさを明確にできる条約の枠組みとして、ヒロシマ・ナガサキプロセスを提起したことが指摘された。
木村会員からは残虐兵器の廃絶問題は、軍事問題ではなく、政治問題であり、経済問題であると指摘し、軍産複合体の問題についてどう考えるのか他の報告者への質問がなされた。目加田会員からNGOが金融機関に製造企業への投融資をやめろとの新たな動きが出ていることが紹介された。
最後にフロアーからモデル核兵器禁止条約づくりに携わった浦田会員が発言され、伝統的な国際法の考え方は条約とは国家間の文書づくりとの考えだが、モデル核兵器禁止条約づくりのなかでは国家間の合意文書づくりだけでなく、市民・NGOといった勢力が担う新しい国際条約作りを進めていこうと議論したことが披露された。
同部会は、分科会「平和運動」と「グローバルヒバクシャ」が共同で立案したものであった。分科会「グローバルヒバクシャ」側の企画意図としては、核兵器廃絶は単独で議論される傾向が強いが、クラスター爆弾や劣化ウラン兵器の廃絶運動と重ねることで、核廃絶に向けた新たな視覚が得られるのではとのねらいがあった。示唆に富む報告と議論が展開されたと自負している。報告をいただいた4人の先生方に感謝申し上げたい。(竹峰誠一郎)