司会:宮寺卓(立教大学非常勤講師)
報告:増山久美(拓殖大学非常勤講師)「メキシコ市低所得者層の家族形態と女性の役割:生存戦術としての経済活動に焦点を合わせて」
討論:山口恵子(弘前大学)
環境・平和分科会ではサブシステンスをひとつのキーワードとして討論を重ねてきた。これは環境問題の解決のためには、資本主義のシステムを根本から問い直すことが不可欠であるという問題意識によるものである。サブシステンスは多義的な概念であるが、その中で地域における自律的な経済システム、あるいは相互扶助は重要な位置を占めている。今回は増山久美会員にメキシコ市の低所得世帯における、女性を中心とした相互扶助の実態について報告して頂いた。
報告ではまずラテンアメリカでの伝統的な家族概念としての「ファミリア」が紹介された。メキシコでは工業化の進展に伴い、居住形態としては核家族化が進展しているが、低所得層においては、近くに住む親族との間で「近住拡大家族」が成立し、それらがファミリアとして認知されているという。
そして,このようなファミリアを中心とした相互扶助の重要な要素として「講(頼母子講)」の仕組みが明らかにされた。講は女性たちによって組織され、それによって得られる資金で商売を行うなどして、生活の安定に重要な役割を果たしている。さらに講によってファミリアの連帯は強まり、相互扶助を強めるという。
発表をめぐって、近代化による社会変容の中でのファミリアの意味合いの変化、講による女性の地位の変化などの論点が提出され、活発な討論が行われた。
夕刻からは分科会の特別企画として、中村尚司会員に「社会関係の商品化と脱商品化」という題でお話し頂いた。報告では環境問題を含めた今日の諸問題の解決のために、土地・労働力・信用などの社会関係の脱商品化を進めることの重要性が提示された。
中村会員による「社会関係の脱商品化」という主張の意味するところは、資本の蓄積・集中を防ぎ、小商品生産者を主体とする市場経済を構築することである。一方、増山会員の報告は市場経済の底辺に置かれた者たちが、相互に助け合うことで小商品生産者として市場経済の中で生き延びていく様を示したものである。このように連関のある議論が行われたことで、一層の効果が得られたと言えよう。(宮寺卓)